世界的なポリオ(小児麻痺)根絶のための取り組みが始まった1988年においては、125カ国以上にわたって、年間約35万人もの患者が病気に苦しんでいました。その後、予防接種(ワクチン)の強化によって、2014年10月時点では209人と大幅に減少しました(日本ユニセフより)。ポリオワクチンには、「不活化ワクチン」と「経口ポリオ生ワクチン」があり、日本においては、2012年9月からは「不活化ワクチン」が導入されています。本記事では、ポリオという病気を通して、この2つのワクチンの違いを解説していきます。

目次

ポリオとは

ポリオウィルスが原因で、小児を中心にかかる病気です。足や腕に麻痺が起こるため、小児麻痺とも呼ばれています。感染経路としては、主に感染者の便を通じて経口感染します。治療法が無いため、予防するためのワクチンが最も有効な手段です。

1988年においては、世界125カ国で35万人が感染していました。しかし、WHOを中心とした予防の取り組みの結果、全世界で25億人の子ども達が予防接種を受け、現在は流行している国はアフガニスタン、ナイジェリア、パキスタンの3カ国まで減っています。ただし、周辺国でも輸入感染などが確認されているため、渡航の際は十分に気をつける必要があります。

「不活化ワクチン」と「生ワクチン」の違い

ポリオのワクチンには、毒性を弱めた注射で接種する「不活化ワクチン」と口にワクチンのドロップをたらす「生ワクチン」の二種類があります。「生ワクチン」は、価格が安く、簡単に投与できるため、途上国を中心に多く使われています。

不活化ワクチン(注射) 生ワクチン(経口)
ワクチンの状態 ウイルスを不活化し(=殺し)、免疫を作るために必要な成分を取り出して病原性をなくしたもの ウイルスの病原性を弱めて作ったもの
メリット ワクチンによる小児麻痺が起こることがない 強い免疫ができる
1回の接種で済む
デメリット 免疫の続く期間が短い
免疫獲得のため、予防接種を複数回受ける必要がある
稀に、ワクチンを飲んだ人や周囲の人に小児麻痺が起こることがある
種類 インフルエンザワクチン
Hibワクチン
狂犬病ワクチン
コレラワクチン
三種混合(DPT)ワクチン(ジフテリア、百日咳、破傷風混合ワクチン)
二種混合(DT)ワクチン(ジフテリア、破傷風混合ワクチン)
不活化ポリオワクチン
四種混合(DPT-IPV)ワクチン(ジフテリア、百日咳、破傷風、不活化ポリオ混合ワクチン)
日本脳炎ワクチン
百日咳ワクチン
肺炎球菌ワクチン
A型肝炎ウイルスワクチン
B型肝炎ウイルスワクチン
ヒトパピローマウイルスワクチン
BCG
経口生ポリオ(OPV)ワクチン
天然痘(現在は、主に軍用)
麻疹ワクチン
風疹ワクチン
MRワクチン(麻疹・風疹混合ワクチン)
おたふくワクチン
水痘ワクチン
黄熱ワクチン
ロタウイルスワクチン

日本で「不活化ワクチン」が導入された背景

「生ワクチン」は、強い免疫ができ、また接種が容易である一方、約440万回に1回の割合で麻痺が起こり、580万回に1回の割合で2次感染(接種を受けた人の周囲の免疫を持っていない人へ感染すること)が起こるといわれています(感染症情報センターより)。実際に日本においては、昭和52年以降、169名の方がポリオの予防接種健康被害の認定を受けています(厚生労働省より)。

こうした背景から、日本では2012年9月から毒性の弱い「不活化ワクチン」が採用されました。「生ワクチン」から「不活化ワクチン」に切り替えることによって、ワクチンによる麻痺が起こる割合が95%減らせると考えられています。

まとめ

10月24日は、「世界ポリオデー」です。世界のポリオ根絶までは、あと一歩のところまできています。また、ワクチンによる健康被害を起こさないためにも、今後は「不活化ワクチン」導入が重要です。ポリオの無い世界を実現するために正しい知識を身につけ、一人ひとりができることを考えて、行動していきたいですね。